『上下ルビで学ぶ介護の漢字ことば』の使い方
1.どんな順番で、どのくらいの時間をかけて教えますか。
2.ウォーミングアップのやり方は?
3.「話すときのことば/書くときのことば」のやり方は?
4.漢字語や例文はどうやって教えますか。数が多くて、単調になりそうです。
5.難しい漢字が多いですが、書く練習もするのですか。
6.定着を図るために、どんなことをしますか。
1.「上下ルビで学ぶ…」をだすことにしたのはなぜ?
外国から来て介護の場で働く人の介護の日本語を学ぶ負担を少なくするためです。 介護のことばは、明治の看護学から伝わったものが多く、その専門用語は「咀嚼」「嚥下」など難しい漢語が多いです。一方で介護利用者や家族と話す時は「かむ」「のみこむ」のように日常語を使います。外国から来て働く人たちが、こんな漢字の専門語と日常のことばと両方のチャンネルのことばをマスターするのはたいへんです。できるだけ楽に介護のことばを覚えてもらいたいのです。
2.「上下ルビ」とはどういうもの?
ひとつの漢語にはたいてい音読みと訓読みがあります。訓読みは、一般に日常語の意味を表しています。たとえば「汚染」という漢語の読み方は「おせん」、意味は「よごれ」です。「浮腫」という専門語は読み方は「ふしゅ」ですが、その意味を示す日常語は「むくみ」です。この読みと意味の両方を上下のルビとして示すのです。
こうして上に読みのルビ、下に意味のルビにしたものをひとつのことばにして「上下ルビ」と名づけました。
この上下ルビの発想は、私たちが今回新しく考えだしたものではありません。すでに、明治時代の啓蒙書、教科書、家庭用医学書などに多く見られる方法です。明治の本はほとんど縦書きですから、たいてい漢語の右にその読み方、左に日常語の意味がついています。下の写真を見てください。
「命令」は「めいれい」と「いひつけ」、「圧迫」は「あっぱく」と「をさへ」とそれぞれ左右にルビがついていますね。
明治時代の人たちも新しく生まれた漢語を学ぶのは大変だったのでしょう。教育的配慮として左右にルビをふる方法が多く見られます。こうした明治期の漢語の習得法に学んで、現在の漢字習得に苦労している人たちの負担を減らせないかと考えました。このように示せば、「汚染」の読み方がわかり、辞書を引かなくても「汚染」の意味がわかります。ひとつの塊としてイメージとしてとらえることができるので覚えやすいのではないでしょうか。
3.上下ルビの使い分けは?
「踵部」を「踵 部」として使う時と、「かかと」として使うときがありますので、
記録 田中さん、入浴のとき。踵部にすりきずあり。
利→ス この靴を履くと、かかとが痛いから、あの古い靴にして。
のように、場面や話者によって使うことばが違うことを示します。
そのほか、漢字のことばを覚えるためいろいろな試みをしていますので、以下のサンプルのページをごらんください。
介護の日本語を学ぶ人たちが、この本をよい友達として、楽に、楽しく勉強してくださるように願っています。
【上下ルビで学ぶ介護の漢字ことば】の使い方
1.どんな順番で、どのくらいの時間をかけて教えますか。
①ウォーミングアップ
↓
②「話すときのことば/書くときのことば」の導入と説明、練習
↓
③漢字語と例文の導入と説明、練習
↓
④定着を図る
このような流れで教えます。
一つのユニットに「話すときのことば/書くときのことば」が2つか3つありますので、45分授業なら2~3回かけて進めるといいでしょう。
2.ウォーミングアップのやり方は?
イラストを見て学習者といろいろおしゃべりしながら、そのユニットの内容をイメージさせることがねらいです。
ユニット1は起床したときのイラストですね。
「利用者さんはいつも何時ごろ起きますか」
「利用者さんが起きたら、どんな声掛けをしますか』
「起きてから、何をしますか」
など質問したりしながら、学習者にいろいろ話してもらいましょう。
会話もいっしょに読んでみましょう。
3.「話すときのことば/書くときのことば」のやり方は?
まず、本を見せずに教師が読んで聞かせるのも一つのやり方です。
・現場では申し送りが聞きとれることが大事ですので、その練習にもなります。
・学習者がどのくらい聞きとれたか確認してから、改めて本を見て文章を説明します。
・内容を理解した上で、いっしょに文章を音読しましょう。
そのとき漢字語の上ルビを読むと同時に、下ルビもいっしょに目で確認するように促します。
4.漢字語や例文はどうやって教えますか。数が多くて、単調になりそうです。
確かにたくさんの漢字語を覚えるのは、学習者にとって本当に大変です。楽しく学習するためにはいくつかの工夫が必要です。
①カードを使って導入:三つ折りにした紙の真ん中に漢字語、上部に上ルビ(読み方)、下部に下ルビ(やさしい言い方、意味)を書いたカードを作ります。漢字語を導入するときも、まず漢字語の部分を見せます。学習者に読み方を類推させたりしながら、上ルビ、下ルビを開いて見せていきます。
②例文の理解と音読:上ルビは、主にスタッフ同士が話したり記録文などで使われます。下ルビは利用者さんと話すときによく使います。「ス→ス」「記録」「ス→利」などのマークを確認しながら、だれが話しているのか、どんな内容か理解させることが大切です。理解できたら、ぜひ声に出して例文を音読してもらいましょう。元気な音読は授業を活性化させます。
③練習:いくつか漢字語を学習したあとで、漢字語カードを次々見せて、読みを言わせるといいでしょう。見せるテンポに変化をつけてゲーム感覚で練習したり、クラス内で競争させたりすると楽しく学習できます。
その他、さらに漢字語を使って文や会話を作ったり、申し送り文を聞きとったりなど、いろいろな練習の工夫をしてみましょう。
5.難しい漢字が多いですが、書く練習もするのですか。
正しく読めること、意味が分かることを優先して、書く練習まではしなくてもいいでしょう。今は、パソコンやスマホですぐに漢字変換ができますし、パソコンで介護記録を書く施設も多いようです。
ただ、パソコンを使う場合でも、正しく入力しないと正しい漢字が出てきません。特に「きしょう」「せっしゅ」「ちゅうしょく」のような拗音、長音、促音などのあることばは苦手なかる人が多いので、ひらがなで正しく書けるように指導しましょう。
6.定着を図るために、どんなことをしますか。
①カルタ取りのようなゲームをしてみましょう。
ホワイトボードに図のように漢字語を並べます。
教師または学習者の一人が読み手になって、例文を読みます。
「山田さん、けさはいつもよりおそく7時半起床です」
その例文に出てくる漢字語とみつけた人は、その漢字語を
「きしょう! 左の2番目!」のように答えます。
血圧 | 洗顔 | 異常 |
起床 | 測定 | 脈拍 |
自力 | 洗髪 | 体温 |
②マッチングゲームをしましょう。学習した漢字語カードを漢字語、上ルビ、下ルビに切り離します。複数のカードを漢字語グループ、上ルビグループ、下ルビグループに分けてシャッフルしてから、机の上に並べます。漢字語を一つずつ選んでは、その上ルビと下ルビを探し出して、並べ変えていきます。
③ユニットの最後のほうに、「ユニット〇の漢字のことば」の囲みがあります。ここでは上ルビと下ルビが赤い字になっており、付属の赤いシートを使うと見えなくなります。それを使って、ちゃんと覚えられた確認できます。